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不穏
6-1 難題
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6-2 嘘の忠誠
兼平は言う。
「一周忌には、津軽の主要な者らが集まります。そこを謀られば、たちまち危ういと思われたのでしょう。大浦家は企てるはずだと……。」
とにかく疑いを晴らさねばなるまい。事態が悪化すれば石川から、ひいては津軽すべてから攻め込まれかねない。
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ここで、とある一人が手を挙げる。知恵者の八木橋であった。
「弟の政信公を説得するには、兄信直公の意を示すのが一番かと存じます。」
今は大光寺の訴えにより、弟政信の気持ちは疑いの心に満ちている。ならば兄信直に助けてくれと哀願し、政信を窘めるように一筆を書いてもらう。
信直は為信に恩義もある。いい策だろうが……これには問題がある。兼平は懸念を示した。
「北路なら野辺地と七戸、南路は三戸を通りますが、これら場所は九戸派でひしめいております。八戸に着くまでに咎められてしまう可能性があり……決死の覚悟が必要です。」
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為信は腕組みをし、顔をしかめて悩む。他の者も同様であった。そんなとき、末席の方で二人が立った。そして大声で言う。
「この儀、われらにお任せいただけないでしょうか。」
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科尻と鵠沼だった。
最初に科尻は言う。
「他国者であれど、大浦家に仕えることができ感謝しております。ただしそれは小笠原殿おひとりの力が認められたにすぎませぬ。」
続けて、鵠沼が話す。
「ここで我らの度胸をお見せして、大浦家のために尽くしとうございます。」
上座側、それも森岡の隣に小笠原は座っている。彼はなぜか感動しているようで、いつもの仏頂面ながらしきりに頷いていた。その様子をみた為信、二人に八戸へ行かせることにした。
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為信は二人に声をかける。
「遠路、それに雪が積もる中の使いだ。寒かろうが、事は重大。頼んだぞ。」
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6-3 人質
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6-4 嫁入り
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6-5 毒消し
薬師は脈をとり、額に手を当てた。いくつか質問し、それに基づいて有り合わせの漢方より薬を作る。
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……見たところ優秀らしく、あっという間に一つこしらえてしまった。薬師は言う。
「殿はお若いので、自力で治してしまわれたようです。ただ……もう少し養生は必要です。それまではこれをお飲みください。」
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為信からは、笑みがこぼれた。そうできるほどの余裕も生まれていた。薬師も表情をやわらげ、侍女も安心している。ここで薬師は目くばせをした。
「ここからは女子のいない方がよいかと存じます……。」
侍女は男性特有の話かと思い、その場から退いた。薬師はだまって足音の離れるのを聴いている。それほどまでに慎重なのか。
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すると、急に改まった。そして口が開く。
「面松斎殿のことでございます。」
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面松斎……。ある時からぱったりと会わなくなった。なぜその名を出す。
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「私も、彼の占いを頼る身です。」
今は鯵ヶ沢から高山稲荷に戻ったという。先日、占ってもらったそうだ。なぜ移ったかと問うと、そこまでは教えてもらえなかった。ただ……。
「何か起こるかもと、におわせておいででした。」
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起こったのは確かだ。裏切りを疑われ、家来二人が八戸までの密行。さらには兼平の娘をも差し出した。
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「薬師にできることと言えば……これくらいな物。」
そういうと、白い小さな包みを差し出した。
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為信は問う。これはなんだと。
薬師は答えた。
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「毒消しの薬です。」
……いざというとき、お使いください。
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