赤く大きな鳥居の真下、万次とその野郎どもが面松斎を出迎えた。面松斎はいぶかしく思ったが、とりあえず挨拶をする。万次は面松斎に言った。

 「しばらく、俺のそばにいろ。」

 最初、意味が分からなかった。

 「占い稼業はしてもよいが……俺の目の届くところから離れるな。」

 そう聞かされると、野郎たちが面松斎の腕をつかむ。“何が為か” と問いただすと、万次は言った。

 「……それを占ってみたらどうだ。」

・ 

 面松斎は前まで暮らしていた小屋まで引っ張られ、一人に足蹴りまでされた。

 “よからぬことが起きるのではないか”

 そう、直感した。

 ……ここには道具がある。筮竹を持つ。当たるも八卦、当たらぬも八卦……



 本掛……“震為雷”


 これを、どう捉えてばいいだろうか。第一これは己のことか、万次らのことか。考え方ひとつで大きく異なる。

 ……ひとつ言えることは、大きなことがこれから起こる。かもしれない。

 どこまであたるかは、定かではない。己が一番わかっている。

 ふと、昔の八卦を思い出した。為信を占った時に出た本卦は“風雷益” ……結果としていい方向にはいったが。もし“震為雷” が為信と関係あるのなら、何を示すのだろう。奇遇にも“為” の字が入っている。

 何にせよ、当分は為信と会えない。為信も高山稲荷には近づけないだろう。


 ……もしや、それが狙いか。


 ということは、為信の身に何か起きる。

5-10 卍の未来

 同日、万次は科尻と鵠沼も呼んでいた。稲荷の社殿で、仲間たちが談義する。外の暗闇とは別に、数多くの灯で中は明るい。


 “火は放たれた”


 三戸での騒動は、津軽にも飛び火する。その動きを使わない手はない。誰もがそう思った。

 万次は科尻と鵠沼に問う。

 「準備は進んでいるか。」

 二人は静かにうなずいた。周りの者は不敵な笑みを漏らす。万次はその皺だらけの顔をにやつかせる。


 「……我らはかつて、相川西野と仲間だった。彼らは石川らの軍勢と戦った。つまり我らの敵は石川ともいえる。」

 固唾をのむ。

 「今、石川の敵は誰だ。それこそ九戸だ。……敵の敵は味方。つまり、我らと九戸は仲間とたりえる。」

 万次は講釈を垂れた。

 「そのように、相手も思ったらしい。あちらより使いが来た。」

 “おおっ” と歓声が上がる。ある者が問う。

 「しかしよくまあ……俺らのような者まで味方に付けようと考えたものですな。」

 九戸は、何としても津軽の牙城を崩したい。万次は続けた。

 「あちらは必死なのだろう。ただな……最近になって加わった者らもいる。勝ち目はすでに見えているぞ。」

 破顔した。

 酒を呑め呑め、鯨肉に食らいつけ。今日は前祝いだ。自ら奥より大樽を運ぶ。豪勢な食べ物を野郎に運ばせる。

 万次は大きな器を持ち、トクトクと清酒を注ぐ。大口開けて、一気に飲み干した。ある者は踊り、ある者は歌う。すでに正月が来たかのようだった。


 ”我らが津軽を征する”


 これは、夢ではない。

→→第六章へ←←

挿絵(By みてみん)

©鯵ヶ沢教育委員会
出典元:特集 津軽古城址
鰺ヶ沢町教育委員会 教育課 中田様のご厚意に与りまして掲載が許されております。