小説 TIME〈〈 -第十章- 作、吉村 仁志。

 

Time<<
吉村 仁志よしむら さとし

👇👇第一章、第二章、前話第八章はこちら👇👇

https://aomori-join.com/2021/04/20/time-1/

https://aomori-join.com/2021/05/06/time-2/

https://aomori-join.com/2022/10/10/time-9/

**第十章**

日曜日、朝から吉山一家は勢揃いした。

「お兄ちゃん!ゲームしよ。」

「よし!練習したから今日は負けないぞ。」

光平がせがんできたので、野球のゲームを始めた。僕はフォークとか打てないだろう球を、ここぞとばかり投げてみる。ずるがしこい手だと思うが、そうして2対0で勝てたのだった。

「ずるい~~。」ほっぺたを膨らませた。そのほっぺを見てツンツン押してやった。2回も打ち負かされた光平は諦めたようで、もう1回やっても多分負けると思ってか、今日は1戦でやめて一人でパズルゲームを始めた。

「父ちゃんから聞いたけど、11日ハーモニカ吹くんだって?あたし達もいっていかしら?」と母ちゃん。僕はかなり恥ずかしかったけど……

「うん、でも離れて聞いてて。」 

「うん、わかった。でも諸事情で近かったらごめんね。」

謝罪したってことは かなり近くに座ってくるんじゃないかと内心ビクビク。そうこう悩んでいるうちに真美の「出来た~」という大きな声が聞こえてきて、「冬の帽子。マフラーと同じ柄!」と間近に見せ付けてきた。なのでありがた~く貰っておいた。そして真美は次回作も頑張るみたいだし、じゃあ僕も期待しよっかな~。

「売店まで歩こっか?」

母ちゃんは僕の歩く姿を見たいらしい。そこで僕はベッドから立って、しっかりと床に足をついて歩いて見せた。「手すり使わないで大丈夫?」「大丈夫。歩くのに集中するから、あまり話しかけないで!」 僕が怒っているかのように聞こえたんだろう。「ごめんね。」とだけ声を掛けて、あとは一言もなしに売店まで歩いた。

「何飲む?」「サイダーが良いな。」「じゃあ、これと……。父ちゃんはウーロン茶。真美と光平にはコーヒー牛乳買って行こうっと。」 商品を取りながら言ってたから、さすが主婦の力?と感じた。そんな母ちゃんの後ろにいると聞きなれた声が。「今日はいちごオレじゃないのね。」振り向くと店員のかなさんがいた。とすぐに母ちゃんにも気づいたみたいで「あ……こんにちは。そんないつも飲まないよ。ミルクセーキもね。」そうだよね~と僕とかなさんが笑ってしまうと、母ちゃんは「お友達?」と話に割って入って来た。「うん、この前友達になった。」「そうそう、ミルク友達ね。」とかなさんは言うと「え~。何それ怪しいわね。」母ちゃんは言うと、一応誤解されないようにかなさんは前に起こった事を説明した。それで母ちゃんも納得したようだった。「ほかのお客さんがコウ君の後ろに並び始めたから、今日はまたね。」

そうして僕と母ちゃんはフクシ売店を後にした。

病室に戻るとテレビからは昼のニュースが流れていた。ベットまで寄って落ち着くと、不思議とごはんの匂いがしてくる。「わたしも今日はおにぎり作って来たんだ。」母ちゃんはバックからおにぎりを取り出した。「お!久々の母ちゃんのおにぎりだ。うまいんだよな。」父ちゃんは雑誌を読み終えたのか、今日初めて声を聞いた。

ここで母ちゃんはわざとらしく笑みを浮かべて「1個だけワサビが入ってます。」と宣言し、いきなりロシアンルーレットが始まった。「はい、父ちゃんは3個。真美と光平は1個ね。」……真剣なまなざし。みんな、やる気だ。「はい、それでは食べて!」「うまい!」発したのは3人からだった。でも父ちゃんは残り2個の中に入っている可能性もあるので、まだまだ緊張感たっぷりなのだけど、そんなのお構いなしに「母ちゃんのおにぎり、卵焼き入ってて、うまいよね。」と光平がしゃべりだした。真美も「うんうん、これ握っても、うまく握れないから、さすがだね。」としゃべりながら食べてる。

いつの間にか父ちゃんは残り2個も食べ終わっていた。最後の1個を口にしながら疑問がわいてきたみたいで、「あれ、これもうまい。何でだ?」とキョトンとしていた。母ちゃんはしてやったりで「誰がおにぎりに入ってるって言ったのよ~。」と冗談めかしく答えた。そういいながら今度は、今度は母ちゃんお手製のブラウニーケーキが出てくる。(ちなみにこのころになって僕のおにぎり1個も食べ終わった。食べるのはどうしても遅いのは仕方がない)

「8個あるから1個ずつね♪」 皆1個ずつ取ったところで、パン屋のおやじがやってきた。日曜日の午後から休みだから身を余してたみたいだ。「ちょうど良いところに来たわね~。」と母ちゃん。そのイヤににこやかな表情を見てやばいと思ったのか「出直しま~す。」という一言と見舞いのパンを置いて帰ろうとした。でも「はい1個どうぞ。」と母ちゃんは無理やりブラウニーを渡した。「どうせこれに何か入ってるんだべ。」「ワ・サ・ビ♪」

父ちゃんと光平、真美はワサビは入っていないブラウニーを食べた様だった。僕も食べてみたけど、普通にうまい。そしてパン屋のおやじも口にすると……案の定、本当に案の定むせていた。「チクショー。でもこれ、ワサビ入ってないとこは、かなりうまいな。」 涙を流しながら食べる人は、初めて見たかもしれない。本当に美味しいのだろうな~という意地悪なセリフは飲み込んでおく。

隣のベットのキクちゃんにも母ちゃんがブラウニーを差出し、やっぱりパン屋の反応を見てるだけあって引きつった顔をしてたけど「大丈夫ですよ。1個だけですから。」という甘い声に乗せられて食べてみると「そうですか……おっ!うまい!!」噛みながらも表情はびっくりから笑顔へ劇的に変わった。「残ったの冷蔵庫入れとくから、後で食べてね。」というと小さな冷蔵庫へとしまう。そして最後に種明かし。「これトリックがあって、実はワサビ入ってるのには、後ろにちょいと穴あけてたのよ。それを一番取りやすいとこに置いたの。それにスガヤのパン屋さんはまんまと引っかかって……ごめんね。」「いやいやいや、やられたな。でもケーキの腕は買うぞ。」真美はにたついて「あっ、母ちゃん、スカウトされてる。」と囃してみる。「月25万なら働きます。」と母ちゃんは言うと、パン屋は「俺食っていけなくなるべな。」 思わずみんなで大笑いをしてしまった。

「じゃあそろそろ行くか。」父ちゃんは言うと「うん、じゃあまたね。」と僕は答える。ドアが閉じるまで手を振って見送った。

そういやパン屋のおやじが持ってきたウエハース、大量にあったなと思い出したのでみんなにあげることにした。ひとまずハーモニカが入ってる車いすのポケットに10個入れておいた。朝目覚めてその日も、ひたすら個人練習。夕暮れに屋上で「ふるさと」の練習。暗くなれば自分の脚だけで階段の上り下り、箸でつまむ練習、お風呂でも自分で洗う練習をして日曜日は終わったのだった。

・”次の日はというと、美雪さんに聞く” “ソウグヤさんが来る” “練習” 今日することを走り書き殴り書きでメモされた紙を2つ折りにし、ウエハースのところに一緒に入れた。その日の午前中は階段で屋上に行き「ふるさと」を吹いた。一通り練習を終えると、かなさんが談話室で昼ごはんを食べる時間だと思い出し、このウエハースを差し入れとして持って向かった。着いたはいいものの、談話室に着くとまだ誰もいなかったので、テレビを見ながら待つ事とした。ちょうどテレビでは主婦の愚痴がメインの番組をやっていた。“家の旦那が相談も無しに物を買ってくるし、なのにそのまま放置してたから仕方なしに片付けてみると、今度は飾ってたのにとか言い出し腹が立つ” という内容だった。なんだか自分の家と似てるな……と感じた。その相談が終わり通販のCMが入ると、次第に2人の声が聞こえてくる。ドアが開き、ドアノブをつかんでいたのはかなさんだった。話し相手は美雪さんだった。

「あ、来てたの?」とかなさん。「あれ?2人は友達なの?」「そうよ。保育園からの友達。びっくりした?」 びっくりと言うか……なんて言うんだろうこの気持ち。びっくりでも驚きでもない(あ、こんなところに繋がりがあったんだ。)て言う気持ちをうまく言い表せないから「ウン、びっくりした。」と最小限の言葉で答えるしかなかった。

「そうだ。金曜日テレビに美雪さんでてたよ。」と僕が伝えると、一緒にあることを思い出した。そういえばかなさんは電話を掛けた時に “美雪” と呼び捨てだったなーって。これで疑ってはいなかったけど、謎めいたものが解けた気がした。美雪さんは恥ずかしそうに手を大げさに振って「あ~。あれ、かなが勝手に応募してね。残り3人まで勝ち残っちゃって。恥ずかしいから、眼鏡掛けて違う人のふりしてたの。」と真相を話してくれた。そういえば美雪さんは病院の外だと眼鏡を掛けてなかったのに、病院内では眼鏡姿だったのが不思議だったんだ。「で、いつ発表だっけ?」美雪さんは かなさんに聞いていた。「来月末頃じゃない?テレビで入ってるけど、あたしあんまりテレビ見ないのよね。」かなさんが言うと「ちょっとあんた、責任くらい持ちなさいよ~。」かなさんの背中を1発叩きながら、美雪さんは言った。

「で、今日の昼ごはんは?」売店でカツ丼を買った美雪さんが かなさんに聞いていた。すると予想通り小さい弁当箱が出てきた。「中身、食パンでしょ?」「当たり。何でわかったの?」「だって高校の時からいっつも、毎日、毎日食パンじゃん。」「だっておいしいんだもん。」「何もついてないんでしょ?」「うん。今日はたくあん入り。」「たくあんって。でも何で いっつも何もつけないの?」「だって父さんみたくコウケツアツで早死したくないもん。」「父さんまだ生きてるでしょ?でもあたし、かなの父さん見たこと無いわ。」「小さい頃コウケツアツで病院行くって言ったっきり帰ってこないの。」「そうなんだ。」

美雪さんは言葉を濁していた。これはよく考えるとわざとこんな話の展開にもっていってたのだけど、当時の僕にはまったくわからなかったので話を180度変えようと「あ、そうだこれ……。」ウエハースを差し出した。きっと笑いたかったであろう本心を押さえながら「意外と優しいのね。」と美雪さんは言った。銀紙を破り、雑にウエハースを取り出し、シールも見ず食パンと食パンの間に挟んで食べ始めた。「うまい。これうまいよ。」美雪さんも食べてみると「おいしい。何で気付かなかったんだろう。」「あんたミス小川原湖取ったら宣伝しなさいよ。」「ちょっと~。なんでミス小川原湖になったのに、このウエハース宣伝しなきゃならないのよ。」「もし番組とかに出て、料理紹介する時あるじゃん。」「ミス小川原湖ってそんなに有名?」「全国区じゃなかったわ。」僕は会話の隙間合間に入ることが出来なかった。

「コウちゃん、あたしお腹いっぱいだから、カツ1個あげる。」さっきおにぎりも食べたし、本当は腹を空かせてなきゃいけないんだけど……美雪さんがくれるからな~。 「ほんと?」 でも僕は気付いた。「箸……はどこ?」「あ、ごめんごめん。箸ないわね。良いわ、これで食べて。」(使用済みの)箸を借り、逆側を使う。「うまい。温かければ、もっとうまい!」「電子レンジあったわよね?」かなさんは言うと、「あたし猫舌なの知ってて、こんなこと言うのよ~。まったく。」猫舌だったのかと初めて知った。

美雪さんは僕に訊いた。「今日はリハビリ何時からなの?」「1時からだから、そろそろ帰って昼ごはん食べようかな。言語療法は……3時くらいかな。」喋ってきた美雪さんは、すぐスケジュール帳を確認していた。「じゃあ、また言語療法室でお会いしましょう。」「1人で帰れる?大丈夫?」とかなさんは訊いて来た。「ここに、1人で来たんだから大丈夫だよ。男の子だもん。」性別をなぜ言ったかは分からないけど、僕はそのまま手を振りドアを開けた。

昼ごはんを食べ終わったのでリハビリ室へ行った。1時前に着いちゃったから誰もまだあ来てなかった。やっと後1分で1時ってときに遠くから “カツカツカツカツ” という足音が聞こえてくる。その音は上村先生の足音だった。毎日スリッパを履きながら移動してるから、少し不思議な鈍さの入るその音はわかりやすい。

「吉山先生、早いねぇ。ギプスやるとこ教えてなかったな。付いてきて。」いつものように僕のことを先生付けする神山先生に言われるがまま付いて行った。トイレの横を通ると指さして「大丈夫か?30分位おしっこ来れないぞ。」そう不敵の笑みをされたのでいきなり不安になって、そこでおしっこをしてからまた上村先生に付いて行くと、目の前には『ギプス室』と部屋の名前は書いてあった。「いまから装具屋さんが来るからな~。」上村先生はそう言い終わると、僕を置いて自分の仕事に戻っていった。少し狭くて、普段あまり使われない部屋なのだろうか?用具類で積み重なって窓が見えなくなっている。

そして1人で待っていると今度は “コトコトコトコト” と革靴の足音だろうか、あまり聞いたことのない足音が近付いて来た。トントンとノック音が鳴り、僕は “は~い” と答え、ドアが渋い音を立てて開かれた。まさか装具屋さんは僕も見た事がある人だった。スーツを着ているダンディおじちゃんだった。学校への通学路ぶりじゃないか。もちろんおじちゃんもびっくりしたらしい。

「久しぶりだね。元気そうでなにより__でも入院してるから元気じゃなかったな。何と言ったら良いのかな。」明らかに迷っている様子だったので僕はそれを振り切って「こんにちは!ダンディおじちゃんこそ元気そうだね。装具屋さんだったんだ。」「うん。装具作るのがホントの仕事で、空き時間に畑で物作ってるんだ。…… “ダンディおじちゃん” って、そんなあだ名付いてたのか。」そうしておじちゃんは笑顔でいていいんだと安心したようで、僕の足を借りるなり手際よく丁寧に右足に包帯を巻き、石膏を塗って来た。「吉山工よしやまこうって言うんだね。いっつも挨拶ばかりだから、名前初めて知ったよ。良い名前だな。」「ダンディおじちゃんは名前何て言うの?」「水野たけじだ。みんな “たけじい” って呼んでるな。」そこで僕は訊いてみた。「僕もたけじいって呼んで良い?」「ハハハッ、良いぞ。でも上村先生の前では装具屋さんって呼んでくれよ。」

言い終わる頃には石膏を全て塗り終わっていた。「固まるまでちょっと待ってな。」そしてたけじいはバッグの中からある物を出してきた。「これ俺が作ったんだけど、娘はケサランパサランとか言ってるんだけど……あげるよ。願い事が叶うらしいから、何でも願ってくれ。」可愛げのあるちぃっちゃな綿毛のキーホルダーを差し出してきた。

「それって……。」

僕は車いすの手押しハンドルに付いてたケサランパサランを出した。

「あ~もう持ってたのか。」「もしかして娘って……。」途中まで言いかけると、それよりも先に「美雪だよ。言語療法室にはもう通ってたか?」「ウン、2回?いや何回か会ったよ。部屋以外でも会ってるよ。さっきもかなさんって売店の人と、3人でおしゃべりしてた。」「まったく、仕事中にか?」「休憩中だから良いんじゃない?。それにおしゃべりして和ませてくれたから、それもお仕事だよ。」「あ~それもそうだな。うまいことを言うな~。」苦笑いしつつ納得してくれた。

そういえば初めて美雪さんと会った日、美雪さんの家の前でたけじいと会い、”知り合いなのかな?” と美雪さんに言われたことを思い出した。たけじいに会って、糸がどんどん繋がって行く様な気が。

「コウ君って呼んでもいいか?」と言われ「ウン。」と答えた。「コウ君の好きな花は何だ?」「ひまわり!」と答えながら、前も同じ質問を誰かにされたな~と思った。「ひまわりか~。俺の農園で咲いてるから、こんど持って来るな。」「やった~!でもたけじいは神様みたいだね。ケサランパサランは作るし、野菜は作るし、花も作るしすごい!」と言うとたけじいは照れながら「いやいや。でも褒められるのは やっぱり嬉しいな。いっつも1人で黙々と仕事してるから話す人が居なくてな。」「じゃあ僕が話し相手になるから、これからもよろしくね。」

ふとたけじいの右耳を見ると、付いてるものが気になった。すぐたけじいは気付いたようで「ああ、これか?補聴器って言って、耳が聞こえにくくなった人が付けてるものだよ。コウ君の声はしっかり聞こえるから、気にするなよ。」

僕はとあ大声でたけじいに質問して無視された過去を思い出した。今から振り返れば、あれは聞こえなかったからだなと分かり、申し訳ない気持ちになった。

著者紹介

小説 TIME〈〈 

皆様、初めまして。吉村仁志と申します。この原稿は、小学校5年生の時に自分の書いた日記を元に書きました。温かい目で見て、幸せな気持ちになっていただけたら幸いです。

著者アカウント:よしよしさん (@satosin2meat) / Twitter

校正:青森宣伝! 執筆かんからさん (@into_kankara) / Twitter Shinji Satouh | Facebook

Author: Contributor

コメントを残す