小説 TIME〈〈 -第九章- 作、吉村 仁志。

 

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吉村 仁志よしむら さとし

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**第九章**

次の日の朝、せっかく寝ていたのに……突然隣のおじちゃんに呼びかけられてビックリした。

「コウ君コウ君。この、この前ここに来てたじゃないか?」

おじちゃんがテレビを指さしてるのは何とか見えたけど、寝ぼけまなこでだし、しかも両目は0.2なので近付かないと見えない。ベッドから降りてテレビの真ん前に近付いてみた。

「美雪さん?」

「・・・歩いてる!」

隣のおじちゃんに衝撃を与えてしまった。でも歩き方がなんか危ない感じがしたから、後で訓練をする事にする。

「さっきの放送はなに?」「あっ、そうだそうだ。小川原湖の情報番組で、”ミス小川原湖” を決めるのに投票集めてるって言ってたな。」「ふ~ん。友達も美雪さんをテレビで見た事あるって言ってたな。」

“昨日かなさんが票入れたのも、あの美雪さんだな” と思いながら「今度会うとき聞いてみるよ。」「大丈夫か?ベッドまで帰れるか?」「リハビリ、リハビリ。」みたいに話しながらベッドのへり伝いに戻れた。「今日はおじちゃんのおかげでい朝を迎えれたから、洗面所行って顔洗って来ようっと。」つぶやきながら車いすに乗ろうとしたけど、せっかくだから歩いて行くことにした。フェイスタオルを首に掛けて、出入口や廊下の手すり、色んなところを伝いながら洗面所へ行った。顔を洗い歯も磨いた。そして歩ける喜びのせいか、その足で早朝病院探検に行くことにしたんだ!屋上まで行って、朝の空気を鼻・口・毛穴、穴と言う穴全てから吸い込んでやった!!朝が早いせいか病院の中はまだ起きてる人が少ないけど、下を見ると通勤する車がかなり見える。上を見上げれば雲が少し早めに動いているようだった。

その日は過ぎるのが早かったような気がする。さっきまで朝かと思うと、もう昼ごはんを食べて外は暗くなりかけていた。リハビリ室に車いすで向かってみると……「おお~吉山先生!元気か?」と上村先生に聞かれたので、「ウン。あっ、そうだ。見て♪」ここで車いすから立って歩いてみせた。そうしたら上村先生は驚いた顔をして拍手をしだすなり「すごいな~この車いすの色!」 “……そっち?” とおもわずこけそうになった。

「俺はてっきりこの車いすの色見てって言ったのかと思ったけど、何も使わず立って歩くなんて、やっぱ若いから治りが早いな。」褒めちぎられると、やっぱり嬉しいな。

「よし、じゃあベッドに移動!今日は1周歩いてみるか。先生は後ろで見てるからな。」まずは右手右足の動きをチェックして、ベッドから立ち歩いた。歩き始めると先生は後ろ側から回り込んで、僕の両方の腰を抑えながら合図をかける。「よし、よし、1、2、3、4!」 それに合わせながら歩いて1周。それだけなんだけど汗で服がビショビショになっちゃって……自分でもビックリしちゃった。「よくできました。そんなになるほど疲れたか?」「全然、疲れてないよ。」嘘ではない。疲れてはいなかったから、そう返した。

「これからのこと考えて装具作るか。俺が居ない時でも大丈夫な様にな。」「装具っていくらくらいするの?」「3万前後かな……。」「家族と相談するよ。」「うん。いつでも良いから返事ちょうだい。よし!じゃあ次はOTだな。これからハンカチかタオル持ってきた方が良いぞ。そのままだと風邪ひくからな。じゃあ、お疲れさん!」

やっぱりというか、OT室でも豊山先生から突っ込まれた。「おっ~、奇抜なまっぶし~色だな。じゃあいつもの特等席に着いて待ってて。」 おとなし~くいつものテーブルに行き、でもそこに居るだけだと暇だから、碁石と皿を持ってきて箸の練習をしてた。それを見て豊山先生は「おっ!さすがだな。言われなくてもやる精神、素晴らしい。」「ありがとうございます!」 元の体勢に戻り、ふと豊山先生の後ろを目がいくと……貼り紙があったので、やってることを一旦止めてじっくりと見てみる。

“9月11日(金)リハビリテーション、創立5周年記念感謝祭”

厚紙に黒マジックで書いてあった。「気になるか?実はまだ内容も全然決まってなくてな。院長先生が今日急にやるって言いだしてな。いま急いでやること考えてるんだけど、なんか良い案あったらくれよな。」「うん、考え付いたら言うよ。」そして箸の練習をまた始めた。

するとしばらくしてドアの向こうから1人の少年が、安全帽を被ったまま近付いてきた。「邪魔だったら部屋で待ってる。」どんな事をしているか興味があったらしい。奴は丸井だった。「邪魔じゃないよ。でも先生の邪魔にならないとこに座っててね。」「おう、任せとけ。」ということで人が誰も通らない、窓際のすみっこにかがんで座り込んだ。

「友達か?ここいても、暇になるだろうから、祭りでの催し物を考えよう。」豊山先生は丸井にも吹っかけていた。「競争とか?組体操とか??」「それじゃあ運動会だべな。」僕は突っ込むと「競争か……。」と、何か豊山先生は閃いたようだった。「あとビンゴゲームとか?」と丸井。「さすが若いだけあるな。それと競争採用!」 ん?こんな簡単に決めてもいいのか?と思いながらも話は続く。

「よっしー、皆の前でハーモニカ吹けばいいべ。」おそらく丸井には僕のキョトンとする顔が目に入っただろう。まさか……丸井はとんでもないものをぶち込んできた。豊山先生は「お~。ハーモニカできるのか。懐かしいな。よし、それも採用だな。」こうしてあれよあれよと決まっていった。「じゃあポスターを来週までに書き換えるな。」さっきまで必死に悩んでいた豊山先生は、丸井が来た事によって人が変わってしまったようだ。明るい顔になった先生は僕の肩や腕を動かしながら、どんなポスターどんな競争にしようか構想を練っていた。だからいつもより口数が少ない。


「次は来週の月曜日な。お疲れ様でした。丸井君ありがとう。」豊山先生は言い、僕と丸井は先生と別れた。「俺、車いす押してもいい?」「ウン、いいよ。」「1回押してみたかったんだ。」そう丸井は言うと顔を少しまともに戻して、続けて「さっきはごめんな。」と言ってきた。「謝ることないよ。むしろ練習することが増えたし、ありがとう。」「そうか……そう思ってるならいいんだ。悩んだ素振り見せたから気になってな。」気も使える年齢に丸井もなったんだな~と感じる一場面だった。

病室に帰ると、父ちゃんが週刊誌を読んでいた。なんかやばいページだったみたいで、焦って慌てて閉じていた。「あれ?今日仕事終わったの?」「うん、1時間早く切り上げてきた。」もう父ちゃんもいるので丸井はゆっくりも出来なそうだし、そこでそっと引き出しから手渡した「これ、皆に手紙書いたから。渡しといて。丸井が皆の前で読んでくれ。」「え~!でもいいや。うん!わかった。」快くはなさそうだが、ガッチリ受け取ってカバンへ入れていた。

僕は父ちゃんの前で立って歩いて見せた。すると父ちゃんは驚いた顔を見せて、感心しながら褒めてくれた。「やるじゃねえか。」「実は歩くために装具が必要で、それが3万円するんだって。」「よし!今日の帰り俺がリハビリの先生に話すから、名前教えてくれ。」「僕も行くよ。」まずはお金の面では一安心。

「そうそう、9月11日にリハビリの感謝祭あるんだって。」まだ病室にいた丸井が父ちゃんに話しかけた。「11日か~。コウは何をするんだ?」「まだ決まってないけど、競争したりハーモニカを皆の前で吹く事になりそう。」そして隣のおじちゃんも話に加わる。「ハーモニカ吹けるのか?懐かしいな。戦争中は吹いてたな。   あっ、じじいの独り言だ。すまんな。」「おじちゃんも11日来て。」「良いのか?じゃあ近くなったら、また知らせてくれ。」

一応ここで僕は念押しのために「少なくとも聞く人が隣の方、丸井君に、父ちゃん。3人もいるから。これはもうやるしかないな。」と言って、自分にも “やるんだぞ” と言い聞かせたのでだった。

「ところでハーモニカは?」

丸井が訊いてきたので探してみると、21穴の複音ハーモニカは(いつ入れたかは分からないけど)車いすの後ろのポケットにあった。

「やっぱり吹く日が来たべ?テレパシーで分かってた。」父ちゃんは勝手に頷きながら適当なことを言ってきた。前に丸井からも言われたから、”本当にテレパシーってあるのかもしれないな” と思った。そこへ父ちゃんは思い出したかの様に「母ちゃん達は、”今度は日曜来るから~” と伝言してくださいとの事だった。」「うん。でもそろそろ5時過ぎるから、先生帰っちゃうかもしれないからリハビリ室行こう。」こうしてなぜか丸井も一緒にみんなでリハビリ室へ向かった。

「押してもいいか?」といきなり父ちゃんは訊いてきた。ずいぶん今日は押したい人いるな~と思いながら、引いてもらう。リハビリ室に着くとそこには上村先生がいて、僕は初対面の方々を各々紹介した。そして父ちゃんと上村先生は相談し始めたので、待っている間 丸井は、ここも新鮮だったみたいで、「エアロバイク初めて見た!すげえ、すげえ!」「だべ。でも患者じゃない人は見てるだけだからな。」「うん。でもすげえな!!」

初見の丸井から感想を聞いていると、父ちゃんと上村先生は近寄ってきた。「来週の月曜、装具屋さんに来て貰うように連絡するから、ちょっと待ってな。しかし返事早すぎるな~。」そう言うと笑いながら上村先生は事務室へ向かっていった。すると父ちゃんは僕と丸井以外いない事を確認するなり……エアロバイクに乗って走りやがった。そうしたら丸井も続けて乗りやがった!

「ちょっと……。」「だって近くにジムとか無いんだもん。」初めて乗るから慣れてないし、ペダルのスピードや重さやらを確認せずに適当に乗って遊んでいた。2人が夢中になって遊んでいるうちに上村先生はリハビリ室へ戻ってきて、案の定こっぴどく叱られていた。でも元通りになるまでそんなに時間はかからず、僕に喋りかけてきたのは上村先生からだった。「来週の月曜の1時に、装具屋さん来るから、大丈夫か?」「うん、大丈夫だよ。」最後に父ちゃんと丸井は「今日は色々と申し訳ありませんでした。」と謝っていた。こうしてみんな別れたわけだけど、丸井と父ちゃんって似ているな~と思った今日なのだった。本当は親子なんじゃない??

土曜日はひたすら練習に勤しんだ。午前中は2階から3階の間のスロープを歩く。そして午後は屋上へ階段を使って向かい、ついでに “ふるさと” のハーモニカ練習も。久々だったから最初ハーモニカを反対に持っちゃって、しかもそのまま吹いちゃって1人で笑っちゃった。でもそのハーモニーは忘れてはいなかった。曲の2番まで吹き、近くのベンチへ行って休憩。それを何回か繰り返した。練習は誰も見てないけど、見てる人はちゃんと見てるって学校の先生が言ってたな。正直スポーツ選手も本番より練習の時間が多いじゃないか。その意味が今日わかったような気がする。

夜はごはんを食べてから、光平との野球対戦のため練習をした。……ゲームね。結果としてシュート・カーブ・フォークを操れるまでになった。指はまだまだ元気だったけど、やりすぎればつりそうだな~と思い1試合目で終えた。そして寝るまでの残りの時間は、箸でつまむ練習だ。手元にあるのは食事に使う箸と、使い捨ての割り箸だ。”フクシ” 病院の売店の名前が書いてあるから、入院して間もない頃 売店から誰かが買ってきて食べたんだろう。その残りの新品割り箸だ。さっそく箸を袋から出し割ろうと試してみるわけだけど、よくよくじっくり考えてみると……他の人は割り箸の食べる先の方から割っている事に気が付いた。まずは床で箸の食べない方をギュッと押しつつ、親指と中指で食べる方を抑えた。ちょうど割り箸が切れやすくなってる切れ目に人差し指を入れて下へ下へと入れて行くと、形は変だけど何とか割れた。そして面白くなってきたので、行儀は悪いけど色んなモノをそれでつまんでみた。ハンガーとかラジカセのアンテナ棒や鉛筆とか色々。割り箸は木で出来てるのもあって、ザラザラして滑らない。食事用の箸より結構つまみやすかった。

隣のおじちゃんは言って来た。「この1週間で凄い治りようだな。やっぱり若いから早いな~。」「そうかな。でもありがとう。ところでなんでおじちゃんは、あまり喋らなかったの?」これまで気になっていたことを唐突に聞いてみた。「あ~。コウ君に家族とか、友達とか居て羨ましくてな。俺は今まで、見ての通り誰も見舞いに来ない。だからいじけてたんだ。」目を下のシーツに向けて、恥ずかしそうに照れ笑いをしながら言った。僕は恐る恐る……「友達は……居るんでしょ?」「ああ。居るには居るんだが、なかなか会わないから、入院してるとか知らないべな。」返す言葉が見付からなかった。

そこで思ってもいない、い言葉が頭からではなく口から出てきた。「僕が友達になる。そしたら、毎日お見舞い来れるでしょ?」

おじちゃんは最初こそ目を丸くしてたけど、すぐにニタっと笑って「ハハハッ。それは傑作だな。よし、これからは友達だ。こんな小さい友達ができるとは、いやはや人生、何があるかわかりませんな。」こう来たので僕は調子に乗って「おじちゃんじゃなくて、なんて呼べばいい?僕はコウ、呼び捨てで良いよ。」「よし。じゃあ俺はキクマツだから、キクちゃんで良いぞ。」「キクちゃん、よろしくね。」僕とキクちゃんは右手で握手して、さらに僕は左手を添えて、キクちゃんも左手を添えてきて、さらには強く握り絞めてきた。なんだかより仲良くなった気がする。

ふと時計を見ると、消灯時間が近い。寝る間際には互いに “おやすみ” と言いあう仲にまでなっていたのだった。

次話、第十章へ

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著者紹介

小説 TIME〈〈 

皆様、初めまして。吉村仁志と申します。この原稿は、小学校5年生の時に自分の書いた日記を元に書きました。温かい目で見て、幸せな気持ちになっていただけたら幸いです。

著者アカウント:よしよしさん (@satosin2meat) / Twitter

校正:青森宣伝! 執筆かんからさん (@into_kankara) / Twitter Shinji Satouh | Facebook

Author: Contributor

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