小説 TIME〈〈 -第四章- 作、吉村 仁志。

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吉村 仁志よしむら さとし

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**第四章**

それから僕の訓練は始まった。ひたすらベッドから起きて寝るのを繰り返す。もしそれに疲れたら、例えば左手でゲームはどうやろうか、ごはんのどう食べるんだっけ?というようなイメージトレーニングをした。夜になるまで何度も何回も行い、慣れないまま訓練の1日目が終わった……。

朝は母ちゃんと、学校や保育園に行く前の真美と光平がくる。夜には仕事終わりの父ちゃんが、クタクタの顔を見せにやってくる。そして看護師B……でなくて畑野さん以外にも看護婦さんはいて、みんな勤務時間が違うからよくわからない。とりあえず今は目ぼしい人だけ覚えて、後は昨日のようにアルファベットを付けて呼ぼうと決めた。小高先生は月曜から金曜まで、朝夕2回欠かさず診察しに来る。後は……丸井は毎日来るんだけど、大抵 ”誰か” と2人で来ていた。”誰か” というのは、例えばクラスの友達だったり、学校の先生の時もあった。木曜にはシーツ交換で水野さんが来る。

色んな人に僕は応援されると、ただただ面倒な繰り返しのように感じられる訓練も、少しずつだけど “頑張んなきゃ!” という気持ちになるような気がするんだ。 訓練の時間はイメージトレーニングしながら、ひたすら寝たり起きたり、僕のできることを繰り返すだけなんだけど……次第に慣れてきたのもあって、自分の中で訓練のこれからの ”スケジュール表” もできあがっていた。

「どうだ?そろそろリハビリに行ってみるか?」と小高先生は言った。カレンダーを見ると、今日は21日の金曜日。ベッドで目覚めてから15日目。僕はまだ声が出ないので、代わりに頷いてみせた。先生はニッコリと微笑んで見せて、「じゃあ連絡してみるから、ちょっと待ってな。」と、その場を颯爽と去った。

母ちゃんと真美と光平も、横で同じ話を聞いていた。やっとで次の段階へとするめるという気持もあれば、これから頑張んなきゃというちょっとした緊張感みたいなものもあるような……。そんな時お構いなしに色んなものを無視して、光平は耳打ちするように僕に喋ってきた。

「ねえねえ、隣のおじちゃんの声聞いたことある?」

すかさず母ちゃんは、人差し指を鼻の上に突き出して「しーっ!」の仕草をした。

ところでベッドの脇にキャスター付きのホワイトボードがあるんだけど、これは僕が目覚めてから次の日に父ちゃんがもってきたやつだ。物が増えて迷惑だなぁと最初は思ったけど、先生や看護婦さんたちのメモも書けたりして、今ではでっかい連絡帳となっていた。右下に【はい】左下に【いいえ】と書いてあるので、これを活用しなきゃなと思い、【いいえ】を指さして見せた。すると”へっー”といった感じで「そっか。お兄ちゃんもそうなんだ。」と真美は応えた。

その後ろに小高先生が見えた。

「吉山君、リハビリとOTの先生が午後にここ来るから、それから時間と日程決めるべ。」

光平と真美が棒チョコのスナック菓子を食べていると、明るめの大人の声が部屋に響く。

「失礼します。」

白衣を着た2人の男性が入って来た。「リハビリの上村です。よろしく。」「OTの豊山です。よろしくお願いします。」いつものように僕は、頷いてみせた。

「まずはそのまま寝てください。」

言われるがままに僕は、上村先生に体の全てを任せた。右足を持ち上げたり、右手でどんなことが出来るか調べているみたいだ。一通り検査を終えると「んとね……。」自分の手帳を見つつ「吉山先生は月曜の2時半からリハビリやります。よろしくお願いします。一緒に闘うべ!」

僕に”先生”と付けて呼んできたことに違和感を持ちながらも、上村先生の心強い言葉に、体が熱くなった。続けて豊山先生が「座れるかな?」と訊ねてくる。僕はギコチないながらも、少し時間をかけてゆっくり座った。

「お!さすが吉山君!」

いやいやいやいや……そのくらいで大げさなと思いながらも、おかしかったので声は出ないけど笑った。「じゃあちょっとまた動作検査するからね。」 豊山先生の力こぶに僕の右手を持っていき、「はい、押して!1、2、3……。」 と合図したあと、豊山先生はカルテと思われるものに何かをメモしていた。「グー、パーはできるか?」 僕は右手に力をいれて、形だけ”グー”にした。指を中に入れただけ。「よし、次にパーは?」 パーとなると結構難しい。力を抜いても、指をピンとは張れないのだ。完璧な “パー” の形にはならない。「よしよし、これだけ出来たら大丈夫だ。」すると再びカルテらしき物に書き出した。

「よし、じゃあOTは月曜の3時からだな。よろしく!」互いに右手で握手した。僕の手は握手する手の形にはなっていなかったけど、手を差し出すと豊山先生は左手も添えてきた。「よろしくな!」

ここまででふと感じたことだけど、この病院のチームワークは凄そう。。。なんかそんな気がした。手を元の位置に戻すと、上村先生は「言語療法の先生だけど、今日から出張で帰ってくるのは1週間後で、土日挟むから……再来週からだな。」僕は首を前に振ると、上村先生は「あ、言語療法は”水野”って女の先生だ。美人だぞ~。」と言ってきたけど、そのことは気には留めず、水野ってこの辺りに多いのかなとだけ思っていた。

病院生活は、ハッキリ言うとつまらない。そしてまだ立ったりも出来ないので、ずっとベッドの上で安静にしているしかない。つまらないのはもちろんだし、でも”訓練”で少し気がまぎれるかな。だけど、ずっと続けてたけど……体は同じまま。不安で仕方がないし、時間はだけが容赦なく過ぎていく。

「今日は病院からこれ借りたから、これに乗ってリハビリ行こう!」

母ちゃんが病室に入ってくるなり、そう喋ってきた。持ってきたのは茶色い豪華な車いすだった。どこが豪華かって……鉄の部分がとても輝いているし、手すりと背もたれがリッチなルイヴィトンのような。

車いすに乗るには、僕はまだ立つことも出来てないから、母ちゃんに手伝ってもらうしかない。「コウも体重重くなったね。昔は豆みたいに軽かったのに。」「え~、光平も豆だった?」付いてきた光平が訊いていた。「そうよ。みんな枝豆みたいに小さく軽かったのよ。でも時が立つに連れて、お豆に重さがずっしりと加わって、大人になってくのよ。」

「ふ~ん」と光平は応えた。分かってるのか分かってないのかは知らないけど。その日は町内会で集まりがあったので、母ちゃんと光平は僕がリハビリが終るのを待たず、早めに引き上げて行った。

そう、今日はリハビリの初日。

2時20分頃【リハビリテーション室】に、看護師の畑野さんが連れて行ってくれた。リハビリ室は大雑把に言うと、体育館みたいな構造になっている。その体育館の中には、歩くのを訓練する平行棒や歩行練習用階段があったり、エアロバイクやロクボクがあった。畑野さんは長椅子があるところに、車いすの僕をひとまず停めてくれた。

「おう!吉山先生!」

上村先生は僕を見るなり右手を挙げて、元気に挨拶してきた。僕も負けずに右手を挙げようと試みたけど難しかったので、代わりに左手を挙げた。「よし!吉山先生、元気そうだな。ちょっと待っててな。」 畑野さんとカルテであろうものを見ながら、軽くミーティングをしているようだ。話し合いが一通り終わると畑野さんは僕に「じゃあ、吉山君また夕方ね。」と告げて、一旦戻って行った。

上村先生は僕に指示を出した。

「よし。じゃあ、あそこにベッドあるべ?あそこまで車いすをこいで、行ってみましょう。」

言われた通り一生懸命自分でこいではみたものの、左手を動かせないので右側の車輪ばっかりが動いて、左側が止まったまま。どうやっても右回りにしか動かせない。「よしよし。じゃあ左足の足台をあげるから、左足を付きながら目標に向かってこいでみて?」 その通りにやってみると……周りの人よりは遅いけど、なんとか真っ直ぐ進むことができた。見ていた患者さんや職員さんからは拍手を受けて、僕は少し恥ずかしいような。

「よくやった。さっきベッドって言ったけど、この大きな部屋を一周してみるか。」

僕にしてみれば果てしなく感じたけど……言われたことだから仕方がない。リハビリテーション室を時計回りで、無我夢中で行く方向のみ見て一周しきった。するとまた拍手の音が。

「よしよし、よくやった。……じゃあお疲れのところなんだけど、ベッドまで頑張ろう。」

ベッド前までこいで行って、両側に付いている細長いブレーキを締めた。僕は左手が動かせないので、左の分は右手でブレーキもしなきゃいけなくて、そこがちょっと面倒だった。

「じゃあ次は自力で立って、ベッドに降りてみるか。」

まずは左手で両方の足台を上げて立ちやすくして、車いすの左の肘当てをおもいっきり下に押しながら立ちあがってみた。足が少しだけガクガクしたけど、なんとか立つことができた。

「よしよし!できてる、できてる。じゃあこのままだとベッドに向いて立ってるだけだから、くるりと回って座ってみて。」

車いすの肘当てを使い、右足を軸に使って、一気に反対に向く。そしてそのままゆっくりとベッドへ座った。

「よし!いいど。今までで100点を差し上げよう。休憩するか?」

僕は首を横に振った。「よしよし、じゃあまた立って。」

今度はベッドから車いすへの移動だった。さっきまでの経験を生かして、時間は掛かったけど頑張った。その代り……体中びっしょりと汗が噴き出てくる。先生はそんな様子を見て「汗かいたな。水持って来るから待ってな。」と言って、駆け足でリハビリ室から出て行った。

その時も僕は(退屈なのを隠すかのように、疲れているのを無視して)立ったり座ったりの訓練を延々と続けていた。すると先生は戻ってきて、「吉山先生、お待たせ。」 それは湯飲みに入った水だったが、そんなのは気にせずに飲んだ。

うまい!こんな気分は久しぶりだった。

「じゃあ、またベッドに移ってくれ。」 僕は再び肘当てをおもいっきり押して、足が小刻みに震えるけど我慢して、後ろ向きにベッドに座った。「よし、よくやったな。」 ねぎらいの言葉も嬉しい。拍手もうれしかったけど、今日のリハビリでいろんなことが出来るようになった気がするんだ。

それから手足の身体動作を確認し、補助されながら動かす運動を15分やって、今日のリハビリは終わった。「よし。自分で立って、OT室までこいで行こう。」 僕はその場に立って、そして車いすに座りこんだ。「OT室こっちだから、今日は一緒に行こう!」

リハビリテーション室から出て、廊下を先生と僕は進む。上村先生は僕の前をゆっくり歩きながら、「ここを右に行って……。あっ、ジュース買うから好きなの押して。長い長ーい闘いの休憩だ。一応病院で患者に買ってあげるの禁止になってるから、わかってるよな。」

上村先生は “だら銭” を財布から取り出したから、ジャリジャリ音が目立って聞こえた。販売機の商品の中に新発売と書いてる【水】を押してみた。「おいおいおい、【水】なんて、水道ひねれば出るべな。」 笑いながら、僕の頭を軽く叩いた。

「俺も……飲んでみるかな……。」

便乗したのかわからないけど、頭をかしげながら同じボタンを押した。そしてその缶を取って、近くの長椅子に座った。「どうだ?今日の一連の流れ、きつかったか?」 僕は首を横に振った。「俺の見る限りじゃ、恐らく半月で立って歩けるようになる。そしたら塩梅あんばい見て、次の段階に行くからな。」 上村先生はタブを開け一口含んでみると、「うん、やっぱり蛇口ひねれば出る水だな。」 お互いの顔を見て僕たちは笑い、「じゃあ飲み終わったら、OT室行くぞ。」 缶を空にするため、僕たちは上を向いて、それを飲み干した。

👇👇次話、第五章へ続く👇👇

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著者紹介

小説 TIME〈〈 

皆様、初めまして。吉村仁志と申します。この原稿は、小学校5年生の時に自分の書いた日記を元に書きました。温かい目で見て、幸せな気持ちになっていただけたら幸いです。

著者アカウント:よしよしさん (@satosin2meat) / Twitter

校正:青森宣伝! 執筆かんからさん (@into_kankara) / Twitter Shinji Satouh | Facebook

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