小説 TIME〈〈 -第七章- 作、吉村 仁志。

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吉村 仁志よしむら さとし

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**第七章**

次の日の朝。起きてからまず、声を出してみた。

「ぁ……ぃ……ぅ……ぇ……ぉ。」

声が出るだけでも嬉しいなと思う。その聞こえてくる声をじっくり確かめながら口ずさんでいると、病室のドアが開いた。そこにいたのは普段あまり見ない感じの看護婦さんだ。朝ごはんを持ってきたようだけど、なんか雰囲気がサバサバしていて、まったく無駄口をはかない人だった。ちなみに僕はこの人を ”看護婦さんC” と名付けた。

「おはようございます!はい、朝ごはんです。吉山君、スプーンも置いとくから食べて下さい。」

驚くことに入院後にして初めての固形食物だった。ご飯、漬物、卵焼き、味噌汁、のり、ヨーグルトがお盆に乗っている。

まずは挨拶。

「おはようございます。いただきます。」

そして箸を使って、自力で食べ始めた。もちろん最初からうまくは行かないけど、僕なりに頑張ってみる。ただただ黙々と口に入れ、噛んで飲むことに集中した。そこに食べ物を味わう余裕なんてないし、手元に細やかさなんてあるはずなかった。……久しぶりすぎて舌を噛まないかとか、内側からほっぺたを噛んでしまったりしないか、そっちの方の心配ばかりだったから。

食べ終わりが汚かった。ご飯粒が残り、味噌汁もワカメがお椀にくっついている状態。本当であれば誰にも見せたくないような、でも仕方ないよなと諦めの気持ちもある。そこへ一番見せたくない人が現れてしまった。。。

「おはよう!お~食べたね。おいしかった?」

美雪さんが入って来て、唐突に聞いてきた。

「おはよう!ウン。あれ、今日小川さん出張じゃなかったの?」と聞くと「うん、出張の日だけど……ってあたし、水野だから!

あれっ?と思い、聞き返した。「だって表札小川だったよ?」「あ~。あれ前の人の忘れ物。そのままにして置いてたわ。」なんだか照れくさそうだ。「そうだ。コウちゃんの部屋にボールペン忘れて行って、取りに来たの。あれ昔から使ってて凄く大事なものなのよ。」。手放したくはない物は僕もあるな~と思いながら、僕も美雪さんと一緒にボールペンを探してみる。

すると僕のベッドの横の棚に、外見そとみが青くて細長いボールペンがあった。

「よし!見つかった事だし、また月曜ね。この車いす、ナウいじゃん。」色を見て言ったんであろうなと思った。なんたって蛍光ペンとほぼ同じ色の、ピンクの車いすだから。

「吉山君。今日昼頃に血を取るから、それまで病院内散歩してても良いわよ。」

看護婦さんCに言われたので、言われた通り素直に動く事にした。車いすに乗ってドアを開けようとすると、隣のおじちゃんが「ボク?売店行く?」と訊いてきたので、「ウン。でも帰って来るの昼頃だよ。」「あ~、いいよ。いちごオレ買ってきて欲しいな。」200円を差し出してきた。

「多くない?確か箱ジュースだと1個98円だよ?」ちなみに1個98円は、スーパーマーケットの値段だ。「ボク、好きなの買って良いから、200円やったのだ。」「あっ、ありがとうございます。できるだけ早く帰ってきます。」まず病室を出てから最初に売店へ行って、一度戻って来ることにした。ドアを開けてから廊下に出て、近くのナースステーションに向かって「売店に行ってきま~す。」と大きく一声かけた。「お!いい声だね!」小高先生は誰かのカルテを見ながら言い返してきた。そういえばここのナースステーションに居る人は、だれも僕の声を聞いたことが無かったんだろうな。みんなで驚いてた。

小高先生は次に首をこちらの方に向けて、「売店わかる?」と訊いてきたので「エレベーターのところに地図があったと思うから、見てから行きます。」

ふむふむ。

「じゃあ気を付けなくても良いと思うけど、気をつけて。そうだ、久しぶりの食事どうだった?」僕は明るく笑顔で「うまかったよ。久しぶりに “食べた!” って気になった。」と元気に感想を伝えた。すると小高先生は夕ごはんの献立が貼ってあるところへ行き、指で上から順番に今日の日にちまでなぞって、にやついてくる。「今夜はステーキらしいから、噛み疲れるなよ。」「大丈夫だよ。夕ごはんもうまそうだね。今から楽しみだよ!」思わず笑わされたままナースステーションを後にした。

地図のところまで行き、売店は1階だと確認した。エレベータに入院している病室があるのは3階だったので、エレベーターで “1” ボタンを押すと、”3” に点いていた光は順番に “2” “1” と移っていく。いざ扉が横に開くと、外来の患者たちがごった返していた。思わずびっくりしたけど、ああ……平日だからか。

ちなみに僕の車いす運転はまだ日が浅いので、ぶつかりそうになったら “ごめんなさい。ごめんなさい” と謝りながら進む、そんなシステムを取った。謝りながら進むと不思議なことに、あちらは素直にけてくれた。

「いちごオレ、いちごオレ♪」

売店に着き鼻歌交じりで探している僕に「いちごオレ取って来てあげる。」と品出し中の店員さんが言ってきたので、頼むことにした。僕はレジの前で待つことにして、奥の棚へ向かった店員さんが「1個で良いの?」と叫んできたので、「2個お願いします!」と大きな声で返した。

「お~、良い声だね~。合唱団に入れるんじゃない?」と言われたので、苦笑いを浮かべつつお金を払った。お金の受け皿から目線を横に移すと、偶然にも少し前に見たことのある紙の束がある。「この詰んである紙って、ミス小川原湖?」そう店員さんに聞くと「あっ、そうそう。誰も持って行かなくてね。」店員さんはその紙を手に取って、改めて内容を確かめだした。

「ん~と、ミス小川原湖って書いてるわね。電話して投票だって。番組見たらわかるらしいけど……。そうだ!昼休みに電話してみよっか。」と店員さん。「昼に採血だから、それ終わってからでも良い?」「あたしの昼休み11時からだから、どっちが早いかな?」と訊かれて、たぶん店員さんの昼休みが早いだろうから僕は「じゃあ11時に、ここにまた来るよ!」と答えた。思わずトントンと話が進んで、意気投合できたんじゃないかな。最後に僕らはおもいっきり手を振って別れたんだ。

隣のおじちゃんに紙パックのいちごオレを届ける為に、車いすの車輪を頑張って回した。早くしてるつもりだけど、他の人から見るとそれが早いか遅いかは分からないけど、一生懸命なのには変わりなかった。エレベーターから降りて364号室の前に着いて、隣のおじちゃんに直接手渡した。

「おう、これこれ。うまいんだよな。」

ストローが紙パックの横に付いており、それを上の穴にさしておじちゃんは飲みはじめた。

うまい!苺に牛乳なんて誰が考えたんだかな。うまい!」

とてもCMに出れそうじゃないけど、とりあえずうまそうだった。僕も車いすに乗ったまま一緒に飲んだ。甘いけどうまい。素直に「おいしいね。」と笑顔を向けてみる。続けて「いちごオレ、ありがとうございます。」「なもなも。いいんだよ。また頼むかもしれないから、宜しくな。」

飲み終わった僕はまた病院探検に行く為、364号室を後にした。

行きも帰りもナースステーション前を通らないといけないから、わざわざ “行ってきます” とか “ただいま” を言わなきゃいけないんだ。なんだかだるいけど。

「病院の中探検してきます……採血は何時からですか?」

念のため訊いてみる。もう小高先生はいないみたいで、看護婦さんが5~6人いるのが見えた。「昼過ぎだから、12時過ぎかな。」看護婦Cに言われたので、「はい、じゃあ12時には部屋に戻ります!」と言い、目の先を廊下の向こう側へ移した。

4階と5階は入院してる3階と同じ景色なんだけど、”談話室”というみんな好きなように出来るところもそこにはあった。エレベーターで5階の上にあるボタン “R” を押すと、ドアは屋上で開いた。__そこには誰も居なかった。少しつまんないような気がしたけど、でも久しぶりに外へ出ることができたので、手を広げておもいっきり深呼吸をかましてやった。

空は何度見返しても、その空のまま、雲一つない空だった。1人になりたいときには来たいな~とさえ思うほど、居心地が良かった。__気分が清々すがすがしくなったところで別のところへ探検しに行こうかな。ちなあみに1階はさっき行ったし、外来の方が沢山来てるからやめておこう。じゃあ2階かな。

またエレベーターに乗り、ドアは2階で開く。先に進むと手術室があって、そこを真っ直ぐ行くと、2階から3階まで坂になっているスロープ通路を見付けた。みんなエレベーターとか階段を使うからかな。誰もその辺りにはいなくて、音1つもしなかった。筋トレになるかなと思い、早速スロープで2階から3階へ車いすで行くことにした。歩く人なら普通の坂道だろうけど、僕にとってはちょっとした試練。車いすで自力で上がるのには少々きついけど、僕はやると決めたものはやる性格だ。途中どうしてもダメなときは、手すりが病院内の廊下全てに付いているから摑まればどうにかなると思って、手すりのついてる左側をこいでいった。

「ウッ。」っと声が出てしまった。誰かに言われた訳ではないし、さらに言うと誰もいなくて助けてくれる人もいないのもあって、とにかく必死に車いすをこいだ。自由に使える左手と左足だけじゃ最初はきつかったけど、途中何度か休んだけど頑張り続けた。そうして3階にたどり着くと不思議と達成感があった。僕には出来たんだってね!

前に進んで上の掛時計を見ると、もう売店の店員さんと会う時間。急いで売店に向かったんだ。

売店に着くと、店員さんは鉄パイプの椅子で座って待ってくれていた。

「ほら、全部持ってきたよ。」分厚い紙の束を見せ付けられた。「えっ?全部いいの?」「いいのいいの!誰も持ってかないしね。」これだけ用紙してくれたってことは……店員さんが休憩を取れたのかわからないまま、車いすを押して2階の談話室のほうへ。

「あたし、ここでいつも昼休み取ってるのよ。先に電話しちゃおうね。」

談話室を横に過ぎるとすぐ、公衆電話のマークが吊るされてた。そこで受話器を取り、テレホンカードを入れる。穴がまったく開いてないから新品だろう。番号を押して受話器を持って、なにぁ喋しゃべりはじめた。「あ……はい、用紙番号ですか?まとめて持っているんですが……1242から1400までです。」どうやらそこは自動音声で処理するのではなく、口頭で伝えた番号でどうにかなるらしい。ずさんな行程だった。「名前?どなたが出てるのですか?」店員さんは言うと、あ、少々お待ちください。ちょっとちょっと……」手招きされた。

「みゆきに、すずさん、もんろうさんが出てるらしいけど、誰が良い?」いきなりだったけど、そこはすかさず「みゆきさん!」と答えた。「はい、みゆきさんでお願いします。よろしくお願いします。はい、はい失礼します。」親指と人差し指でオーケーを作り、話し終わったので受話器を元に戻す。「どうだった?」「なんかね、これで大丈夫みたい。申込受付終了しました、だってさ。でもあたしもこれ出たかったけど勇気がなくて……。」

店員さんの不意の告白が、とても恥ずかしそうだ。顔が赤いんだもの。

次話、第八章へ続く

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著者紹介

小説 TIME〈〈 

皆様、初めまして。吉村仁志と申します。この原稿は、小学校5年生の時に自分の書いた日記を元に書きました。温かい目で見て、幸せな気持ちになっていただけたら幸いです。

著者アカウント:よしよしさん (@satosin2meat) / Twitter

校正:青森宣伝! 執筆かんからさん (@into_kankara) / Twitter Shinji Satouh | Facebook

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