青森・八戸に実在した「女大名」が、知恵と不思議な「かたづの」で藩を守り抜いた——
青森県八戸市。馬淵川のほとりに、かつて根城南部氏の城があった場所があります。そこで江戸時代初期に「女大名」として藩を治めた女性をご存知でしょうか。彼女の名は祢々(ねね)。後に清心尼と呼ばれ、夫と幼い嫡男を相次いで失った後、南部宗家からの再婚命令を拒みながら、知恵だけで家臣を守り抜いた波乱万丈の人生を送りました。
直木賞作家・中島京子さんが描いた歴史小説『かたづの!』(集英社文庫)は、まさにその実在の人物を主人公にした傑作です。2014年刊行以来、河合隼雄物語賞・柴田錬三郎賞・歴史時代作家クラブ賞・王様のブランチブックアワード大賞など数々の文学賞を受賞。文庫化後も読み継がれ、里中満智子さんによる漫画版も大好評です。
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「戦わないことが一番大事」——清心尼の信念が現代にも響く
物語の舞台は慶長5年(1600年)の八戸から、後に遠野(岩手県)へ。夫・直政と長男・久松が不審な死を遂げた直後、叔父・南部利直の謀略が忍び寄ります。祢々は「武器を持たない戦い」を信条に、「家臣を一人も死なせない」ことを最優先に、機転と知恵で難局を切り抜けていきます。
「戦でいちばんたいせつなことは、やらないこと」
この一言に、彼女の強さが凝縮されています。力任せの時代に「戦わない力」を貫く女性の姿は、ジェンダーを超えたリーダーシップの教科書であり、現代の私たちにも静かな勇気を与えてくれます。
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語り部は一本角の羚羊「かたづの」——東北の民話が息づくファンタジックな世界
本作最大の魅力は、語り手が遠野に伝わる「片角の羚羊(かたづの)」である点です。雄の羚羊が生前祢々に助けられ、死後も角に意識を宿して彼女の一生を見守ります。そこに八戸の河童誕生秘話や不思議な生き物たちが登場し、歴史小説でありながら東北のセンス・オブ・ワンダーが満載です。
中島京子さんはインタビューで「東日本大震災後の遠野を訪れたとき、400年前の清心尼が同じ苦難を乗り越えたことに胸を打たれた」と語っています。慶長の大津波を経験した八戸と、現代の東北が重なり合う——その想いが作品全体に温かな光を当てています。
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里中満智子さんの漫画版も超おすすめ
小説の魅力をさらに深く味わいたい方は、里中満智子さんによるコミカライズ版(集英社)もぜひ。丹念かつ流麗な筆致で、清心尼の機知と優しさが鮮やかに蘇ります。歴史漫画ファンにも、初めて歴史小説に挑戦する方にも入りやすい一冊です。
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なぜ今、『かたづの!』を読むべきか? 青森ファン必読の5つの理由
- 青森・東北の誇り:八戸と遠野を舞台にした、地元に根ざした物語。史跡巡りの前に読めば、櫛引八幡宮や根城の跡がぐっと身近に感じられます。
- 女性の生き方:家臣の命を最優先に、謀略の渦中で家族と藩を守った実在の女大名。
- 読みやすさと深さ:ファンタジー要素で軽やかでありながら、史料に基づく重厚さ。
- 現代へのメッセージ:争いの多い時代に「やらないこと」の価値を教えてくれる。
- 青森の紹介に最適:八戸の魅力を全国に発信するのにぴったりな一冊です。
全392ページ(単行本)。一気読みしたくなる展開ながら、読み終えた後の余韻が長い作品です。文庫版なら持ち運びも便利。青森の書店や図書館でも手に入りやすいはずです。
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最後に——八戸を訪れたら
馬淵川沿いを歩きながら、そっと「かたづの」が見守っているような気がしてきます。清心尼の知恵と、片角の優しい眼差しが、きっとあなたの心に灯をともしてくれるでしょう。
中島京子『かたづの!』——東北の大地と民話が育んだ、忘れられない一代記。ぜひ手に取ってみてください。読み終わった後、青森の歴史がもっと愛おしくなるはずです。







