大相撲九州場所千秋楽。福岡国際センターで、ウクライナ出身の関脇・安青錦 新大(あおにしき・あらた)が横綱・豊昇龍との優勝決定戦を制し、見事に幕内初優勝を飾りました。初土俵からわずか14場所での賜杯は、年6場所制では史上2位のスピード記録。ウクライナ出身力士としても初の快挙です。
安青錦は、2004年生まれ・21歳。身長182センチ、体重140キロの体格を生かし、右四つからの寄りを得意とする力士です。出身はウクライナ中西部の都市・ヴィンニツャ。戦禍を逃れて2022年4月に来日し、日本で相撲を続けられる環境を求めて安治川部屋の門を叩きました。
所属する安治川部屋を率いるのが、青森県西津軽郡深浦町出身の元関脇・安美錦竜児(現・安治川親方)です。巧みな技と粘り強い相撲で「行司泣かせ」と呼ばれた名関脇は、引退後、自ら部屋を興し若い力士たちを育成。その中でも安青錦は、もっとも大きな成果を挙げた“看板力士”となりました。
しこ名の「安」と「錦」は師匠・安美錦から受け継いだ文字、「青」はウクライナ国旗の色から。「新大」は、来日のきっかけをつくった友人の名前に由来します。母国への思いと、日本で支えてくれた人々への感謝が込められた四股名です。
2023年秋場所で初土俵を踏むと、序ノ口・序二段で連続優勝。2025年春場所には初土俵から9場所という歴代1位タイのスピードで新入幕を果たしました。新入幕後も二桁白星を続け、敢闘賞2回・技能賞3回と5場所連続で三賞を受賞。九州場所では12勝3敗で優勝し、殊勲賞と技能賞も加えるなど、“超新星”の勢いは数字にも表れています。
土俵上の持ち味は、常に前へ出る攻めの相撲。その一方で、内無双や投げ技も織り交ぜる器用さも光ります。多彩な技で土俵際まで粘るスタイルは、現役時代の安美錦を思わせるもの。本人は「師匠の言うことを守っているだけ」と語りますが、青森の小さな町から関脇まで上り詰めた名力士の“安美錦イズム”が、ウクライナ出身の弟子にも確かに受け継がれているようです。
九州場所の優勝により、大関昇進も現実味を帯びてきました。審判部からは臨時理事会の招集が要請され、スポーツ紙各紙は「大関昇進が確実」と報じています。ウクライナから日本へ、そして土俵の頂点へ――。青森・深浦出身の安治川親方が育てる“青森ゆかりのウクライナ力士”の挑戦は、これからますます注目を集めそうです。







