松木平駅は『泳ぎすぎた夜』の重要なロケ地として選ばれ、映画の中で主人公の少年が電車に乗り込むシーンが撮影された。この駅は青森県弘前市大字小栗山字長田に位置する弘南鉄道大鰐線の無人駅で、駅名は松木平から採られているものの、実際の所在地は小栗山となっている。周囲には人家が少なく果樹園や畑が広がる、大鰐線で最ものどかな雰囲気を持つ駅として知られている。

単式ホーム1面1線の地上駅という素朴な駅構造と、りんご畑に囲まれたロケーションが、冬の青森を舞台とした映画の世界観を演出するのに最適だった。映画『658km、陽子の旅』でもロケ地として使用されるなど、この駅の持つ映画的な魅力は複数の作品で活用されている。ホームにはひまわりの描かれた待合室があり、弘前実業高校農業経営科から提供された「初恋」という品種の苗木も植樹され、地域との結びつきも深い駅となっている。

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古川鳳羅の演技初挑戦

主人公を演じた古川鳳羅（こがわ・たから）くんは、撮影当時6歳（一部資料では7歳）の演技未経験の少年で、青森県平川市に住む小学2年生だった。両監督は青森県弘前市での約1カ月の滞在中に”野生キャスティング”を行い、偶然開催されていた音楽イベントで縦横無尽に走り回る鳳羅くんに惹きつけられ、その類まれなエネルギーに魅力を感じて主演に抜擢した。

鳳羅くんの演技は従来の子役とは一線を画すもので、NGテイクという概念すら理解の範疇を超える純粋さを持っていた。五十嵐監督によれば「NGがNGじゃない。彼は僕らが伝えたことを100％やっているだけ。でもNGだったりすると『今、ちゃんとやったじゃん』と言う」という状況で、リテイクは非常に困難だった。ダミアン監督が「この子はアクティングがわかる」と確信したのは、駅で偶然雪が頭に落ちた際に帽子の雪を振り払い、雪が積もった標識を”2度見”するという自然な反応を見せた瞬間だった。実際の家族である父・孝さん、母・知里さん、姉の蛍姫さんも劇中の家族として起用され、リアルとフィクションの境界を行き交う独特な演技空間が創出された。