【再編集版】小説 TIME〈〈 -第二章- お兄ちゃん、だいじょうぶ? 作、吉村 仁志。

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吉村 仁志よしむら さとし

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【再編集版】小説 TIME〈〈 -第一章- 小さな町の大きな一日 作、吉村 仁志。

**第ニ章**

家の扉をガチャッと開けたとたん、ふわ~っとカレーのにおいが鼻の奥まで飛び込んできた。ああ、今日も家のカレーだ。うちのカレーって、見た目はなんだか茶色いだけで、何も入ってないように見えるんだけど、実は人参とかにんにくとか、ひき肉とかが、これでもかってくらい細かく刻まれてて、ルーも2種類も使ってるし、最後にはトマトと牛乳と板チョコまで入れちゃうんだ。母ちゃん、すごいよなあ。だから、うちのカレーはまろやかで、めちゃくちゃうまいんだ。

「ただいま~!」って玄関から叫んだら、母ちゃんはガスの火をつけたまま、台所にソファを持ち込んで、新聞の番組欄を読んでた。こっちに気づいたとたん、「おかえり~、風呂入ってしまいなさい!」って大きな声で言うもんだから、「は~い」って返事して、ぼくはそのままお風呂場に向かった。

お湯につかってると、お腹がキューって鳴った気がしたけど、カレーのにおいのせいかなって思って、あんまり気にしなかった。

お風呂から出て居間に行くと、妹の真美と弟の光平が2人で仲良くおしゃべりしてた。どうやら、ぼくより先にお風呂を終わらせてたみたい。光平がぼくを見るなり、「お兄ちゃん、ゲームしよ♪」って言ってきた。「オウ、いいよ。でもごはん食べてからな。」って言ったら、「やった~、じゃあ今日やるソフト、選んでおくね!」って、もうワクワクしてる。

光平は4歳で、ほっぺたがぷく~っとしてるから、つい指で押したくなるんだよな。「やめろよ~。」って嫌がるけど、それがまた光平っぽくて、なんかかわいい。真美は10歳で、まだ学校で習ってないのに、編み物とか料理とかしちゃうんだ。今日はテレビを横目で見ながら、何か編んでる。たぶん冬用の手袋かな。

「お兄ちゃん、野球のゲームやろ~。」って光平が言うから、「よし、今日は負けないからな。」って言って、またほっぺたをぷにぷにっと押した。「やめろよ~。」って、やっぱり嫌がるけど、最後には2人で笑っちゃった。

なんだかんだ言って、こういう毎日がぼくはけっこう好きだ。

ちょうどそのとき、「ご飯の時間よ~!」って母ちゃんが台所から大きな声で呼んできた。いつもよりちょっとだけ早い夕ごはん。ぼくと真美と光平、3人そろって台所へダッシュ。なんだかんだで、みんな準備する役目が自然と決まってる。ごはんをよそうのは真美、カレーを盛るのはぼく、光平はそれをテーブルまで運ぶ。誰が決めたわけじゃないのに、なんとなくそうなってるのが不思議だ。

母ちゃんが髪を結い直しながら、「父ちゃん、今日呑み会なんだって。だから待たずにさっさと食べましょ。」って言った。テーブルにカレーが並んだら、ぼくが「いただきます!」って大きな声で言う。そしたら、みんなも「いただきます!」って続けて言う。なんか、こういうのって、ちょっと楽しい。

カレーを食べてたら、突然「今日のいいこと、発表のコーナー!今日は真美から!」って、いつ始まるかわかんないコーナーがいきなりやってきた。真美は「近くに100円ショップができて、毛糸の黄色買ってきたよ。」って、テレビ台の下に置いてた毛糸を指さした。母ちゃんは「なんでも100円だから、ついつい買っちゃうのよね~。私も今日、父ちゃんのネクタイ買っちゃった。」って言って、2000円くらいしそうなネクタイを見せてきた。ぼくは「すごい、高そうだね。」って言ったけど、光平が「すごいね。誕生日プレゼント、100円コーナーで買ったらいいじゃん。」って言って、みんなで笑った。

ちょっと静かになったけど、ぼくはわざと大げさに「100円はダメだろっ!」って突っ込んだ。そしたら光平が、「あっ。光平もおもちゃ欲しいから100円はやめた。」って言うから、なんか妙に納得しちゃった。「じゃあ次は光平!」って言ったら、「はい!」って元気よく手をあげて、「これからお兄ちゃんと野球のゲームすることです♪」って言う。ぼくは急いで、「宿題はやってから、ゲームするから……。」って付け足した。母ちゃんはちょっと間をおいてから、ニコッと笑って「今日は勝つんだよ!」って光平の頭をぽんぽんって叩いた。でも光平はカレーのルーをお皿に口つけて飲んでたから、むせそうになってた。

「よし!次、コウ!」って言われて、ぼくも発表することにした。「あっ。今日、小川さんの家でトイレ借りて助かった。」って言ったら、母ちゃんが「小川さん?近所にいたかしら?」って首をかしげた。真美は(せっかくカレー食べてるのに……)って顔してるし、光平は「お兄ちゃん、今ゴハンチュウ!」って、まさかの注意。ぼくもちょっと反省。

でも母ちゃんはまだ何か考えてるみたいで、ぼくは「美雪さんって知らない?」って聞いてみた。「わかんないわね~。家はどの辺なの?」って逆に聞かれて、「”みずののうえん”の近くのアパートの2階だよ。」って答えたら、「あ~、あの家ね。小川さんっていう人が住んでるんだ。」って納得してた。

「ウン、あとはふるさと吹いたら、スガヤパンのおやじが、パンをタダにしてくれた。」って言ったら、真美と光平が「いいなぁ~。」「ずるぅ~い。」って同時に言ってきた。母ちゃんも「よかったじゃない。」って笑ってくれた。

そんなふうにみんなで話してたら、気づいたらカレーのお皿はみんな空っぽになってた。やっぱり、家のカレーは最高だなって、ぼくは思った。

一番最初に食べ終わるのは、だいたいいつも母ちゃんだ。今日も「ごちそうさま~」って言って、さっさと台所でお皿を洗い始めた。2番目は真美かぼく。今日は真美が先に食べ終わって、ぼくは3番目だった。最後は光平だけど、そんなに遅くもない。みんな、だいたい同じくらいのタイミングで食べ終わる。

「ごちそうさま。」って真美が言ったあと、ぼくも続けて「ごっ……」って言おうとしたのに、なんだか声が出なかった。べつに口の中に何か入ってたわけじゃないのに、不思議だな。そしたら光平が、右手でスプーンの先をぼくに向けて「お兄ちゃん、挨拶は?」って言ってきた。ぼくは「ウン、すまんすまん、むせて言えなかっただけ。ごちそうさま。」って言ったら、光平が「やればできるじゃない。」って、ちょっと生意気なことを言う。思わず(光平め!)って思ったけど、まあ、ぼくが悪いんだしな。反省しながらカレー皿を台所の流しに持っていった。

後ろを向いて、「宿題やり終わるまで待ってて。」って光平に言うと、「うん、光平もごはん食べ終わるの待ってて。」って返事が返ってきた。そんなにごはん残ってないのに、どんだけゆっくり食べるんだよ、と思いながら「ウン。」って軽く返事して、ぼくは自分の部屋へ行った。

部屋では、毎週見てる料理アニメをテレビで流しながら、漢字の書き取りの宿題を始めた。“カツ丼のカツは……”ってアニメの声が聞こえてくる中、ぼくは“会議会議会議”って、ノートに13回も書いて覚えた。“得した得した得した”も13回。アニメももうすぐ終わりそうだし、宿題もあとちょっと。

でもそのとき、さっきお風呂で感じたみたいに、お腹がキューって痛くなってきた。トイレ終わったら整腸剤でも飲もうかな、なんて思いながら廊下に出たら、いきなり光平が柱の陰からヒョイっと顔を出して「野球まだ?」って聞いてきた。「お~、びっくりした。あと15分くらい待ってて。」って言ったら、「かちこまりました。」だって。どこでそんな言葉覚えたんだろう、と思いながら急いでトイレへ。

ズボンを下ろして洋式便所に座ったら、あれ?お腹が痛かったはずなのに、今度は急に頭がズキーンって痛くなってきた。なんだこれ、って思うくらい、すごい激痛だった。

これは絶対におかしいぞ、と思ったから、今日はもう寝ることに決めた。居間の棚をごそごそ探して、頭痛薬と腹痛の薬を探してたら、母ちゃんが心配そうな顔でぼくの顔をのぞきこんできた。

「顔色変だよ?」

「うん、今日はもう寝る……。光平には明日ゲームしようって伝えて。」

「うん、……わかった。」

母ちゃんは「今日は一緒に寝る?」って何度も聞いてきたけど、そのときのぼくは、なんとなく大丈夫だろうって思ってたし、男だからって思って断っちゃった。真美も編み物の手を止めて、じっと心配そうにこっちを見てる。

「大丈夫だよ。ありがとう。」

そう言って、ぼくは自分の部屋に戻って布団に入った。寝てる間、1時間に1回くらい「大丈夫?」とか「熱計るね」とか声をかけられた気がする。たぶん母ちゃんの声だったけど、ぼくは「うん……」ってしか返事できなかった。


それから、あっという間に朝になった。

「コウ、起きれる?」って、隣の部屋から母ちゃんの声。

「ウン……。」

起きてみたら、ちょっと“ボーッ”とした感じ。でも、なんとかベッドから出て立ち上がった。ああ、これいつもの“ボーッ”だな、って思って、洗面所で顔を洗って、着替えも済ませて台所へ行った。そしたら、母ちゃんと光平が心配そうな顔でぼくを見てる。

まず最初に、光平に謝った。「昨日はごめんな。」って言ったら、「ううん、大丈夫なの?」って返ってきた。「うん、もう大丈夫だよ。今日帰ってきたら、外で野球しよう!」って言ったら、光平が急にニコッと笑って、「おっ!じゃあ、お兄ちゃん、早く帰って来てね。」って、二人で約束した。

台所の流しの近くに立ってた母ちゃんは、「ほんとに大丈夫?」って、まだちょっと心配そう。「ウン、心配かけてごめんね。」って言ったら、「いや……そのことは大丈夫なんだけど。病院行っといた方がいいんじゃない?」って。ぼくはもう治ったと思ったから、「もうどこも痛くないから、大丈夫だよ。」って答えた。母ちゃんは、まだちょっと納得してない顔だったけど、とりあえずご飯と味噌汁とおかずを用意して、テーブルに持ってきてくれた。

「連絡帳に一応書いておいたから、先生に見せるのよ?」

「うん。」って、普通の声で返事して、ご飯を食べ始めた。あとから真美も起きてきて、目をこすりながら「おはよう……」って挨拶してきた。そこでぼくは、家族みんなに挨拶してなかったことに気づいて、椅子から勢いよく立ち上がって、大きな声で、

「皆様、おはようございます!」

って、いつものノリで言ってみた。そしたら、みんなちょっと笑って、なんだか家の中がふわっと明るくなった気がした。

「あ、父ちゃん起こさないと。」

母ちゃんが急いで父ちゃんの寝室に向かっていった。そういえば昨日は父ちゃんと朝しか会ってなかったな~、なんてぼんやり考えながら、ぼくはご飯を食べ続けてた。

そのときだった。

カチャリ、と箸を落とした。次の瞬間、ぼくはその場にバタッと倒れてしまった。

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「お兄ちゃん!お兄ちゃん!」

光平の甲高い声が、どこか遠くから聞こえてくる。ドタドタと誰かが階段を駆け下りてくる音も聞こえる。「コウ!コウ!」って、母ちゃんの声も何度も呼んでる。でも、ぼくは倒れているのに、なぜか目だけは開いていた。

父ちゃんも後から駆けつけてきた。一見、落ち着いてるように見えたけど、救急車を呼ぶ手がすごく震えてた。たぶん、本当はめちゃくちゃ驚いてたんだと思う。横では真美が泣いてた。

(……なんでこんなに全部、はっきり覚えてるのか、今から考えると不思議でしかたない)

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あの朝のことは、今でも頭の中にくっきり残ってる。

・👇👇次話、第三章へ続く👇👇

【再編集版】小説 TIME〈〈 -第三章- ベッドの上の夏休み 作、吉村 仁志。

著者紹介

小説 TIME〈〈 

皆様、初めまして。吉村仁志と申します。この原稿は、小学校5年生の時に自分の書いた日記を元に書きました。温かい目で見て、幸せな気持ちになっていただけたら幸いです。

著者アカウント:よしよしさん (@satosin2meat) / Twitter

校正:青森宣伝! 執筆かんからさん (@into_kankara) / Twitter Shinji Satouh | Facebook

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